大連で日本語教師。、中国のイメージがいい意味で覆された。

学校への応募の経緯

もともと私は台湾の日本語学校で日本語教師として働いていました。しかし、台湾の日本語学校は、日本語教師の給料水準が相対的に低めであったこと、また、私は日本で大学教員の経験もあったため、大学で日本語を教えてみたいと思っていました。

ところが、台湾の大学は少子化で縮小されつつあり、新規での常勤日本語教師の採用はほとんど行われていません。また、私は中華圏の社会や文化についての研究を行っていて、中国語もやっていたため、中国大陸にまで目を向けて仕事を探すようにしました。その際に主に利用したサイトは「日本村」「日本語オンライン」「日本語教師の集い」「日本語教育学会」などの日本語教師募集サイトです。そうしたところ、今中国で働いている大学に採用され、中国にやってきました。なお、今回働いている大学の求人は「日本語教育学会」のサイトで見つけました。

学校紹介

私が教えている中国の大学は、中国北方の大都市・大連にある大学で、日本語教育では昔から有名な大学です。

中国人の先生方はほとんどが日本に留学経験を持ち、日本の大学院で学位を取っています。また、日本語学科の規模が大きく学生数も多いため、日本人教師の数の多さも中国で1~2位で、日本人教師の数は常時7~8人おります。日本人教師の年齢層は若年層からシニアの方までさまざまですが、シニアの人たちは日本の大学を定年退職したり、高校教師を早期退職したりした人が多く、若手~中堅世代の教員は、中国留学経験があったり、中国哲学・中国文化・中国史などを研究したいたなど、中国に何らかの関わりを持っていた人が多いです。また、日本人教師のほぼ全員が修士以上の学歴を持っています。

学校のキャンパス内

私の大学では、1年生に対しては中国人教師が教えるため、日本人教師は主に学部2、3年生を中心に教えています。授業は中国の大学常勤日本語教師の場合、1週間あたり12コマから16コマ(1コマ45分)、つまり6科目から8科目程度が標準です。担当科目は、会話や作文以外にも、スピーチと弁論、日本事情、日中社会文化比較といった科目などです。また、大学全体として、スピーチコンテストや作文コンテストに力を注いでいるため、スピーチコンテストや作文コンテストの指導も主要な仕事内容の一つです。

教室風景(教室で学生たちと)

現地の言語は必要?

私が働いている大連は日本と歴史的にもかかわりが深く、日系企業も多く進出しているので、中国の中では、比較的日本人になじみやすい雰囲気の都市です。また、中国の大学では日本人教師は大学内にある教員宿舎に住むのが一般的なのですが、大学内には日本語を専攻している学生たちや日本人留学生も多いので(今はコロナの関係で留学生はおりませんが)、中国語はそれほどできなくても、とくに問題なく生活できます。

ただし、やはり中国語ができたほうが食事や買い物も便利ですし、宿舎の職員や大学の中のお店の店員などとのコミュニケーションも取りやすくなるため、やはり中国語ができたほうが便利です。中国語ができれば、現地社会に深く入り込むことができるようになり、中国社会の様々な面をより深く理解できるようになります。中国人の知り合いもできるようになりますので、そこからいろいろ日本語や日本関係の仕事を依頼されることも出てきますので、やはり現地での生活の幅を広げるためにも、現地の言葉ができる方が便利なことはいうまでもありません。

こんなところがよかった

私が中国で働くようになってよかったと思うことは、中国に対するイメージがいい意味で覆されたことです。中国に行く前は、日本のメディア報道の影響もあり、自分の中で中国に対してマイナスのイメージが形成されていて、正直、不安も大きかったです。しかし、実際に中国で生活し始めてみると、別に日本人だからといって態度を悪くされるというようなことはなく、むしろ周囲の中国の方々は、意外と温かくて人間味があることに気付くようになりました。学生たちも総じて礼儀正しくて人懐っこく、普段よく行く食堂や売店の店員さんなども、こちらと行き交うと気持ちよく挨拶をしてくれます。

また、仕事の面で中国のいい点だと感じたことは、スピーチコンテストや作文指導などで指導した学生がいい成績を取れば、教員の側も表彰されたり報奨金が支給されたりしてそれが勤務上の評価に結びつくことです。これは非常に望ましいシステムで、教える側にとって教育に力を注ぐ動機付けにもなっており、日本の大学にもぜひ見習ってほしい点だと思いました。そして、家族や自分を大切にする中国の働き方は、ワークライフバランスもとりやすいと感じています。

苦労したこと

 中国で働くようになって苦労したことは、日本の職場や人間関係における「常識」は、中国では決して常識ではないということです。職場のなかで「ホウレンソウ」がないため、何か確認したいことなどがあったら先方が察してくれるのを待つのではなく、常に自分から聞くようにしないといけません。ただし、逆に日本と違って、「これを聞いたら失礼に思われるんじゃないか…」などと心配する必要や遠慮はありませんが…。

また、モノの指示や連絡が「明日まで!」というようにけっこう突然来ることが多く、締め切りが前倒しになったり、いったん決めたことがあっけなく覆されたり、ドタキャンされることも少なくありません。そのため、常に「万が一」の場合を想定して、代替手段を考えながら動く必要があります。

 あとは、日本の職場のように、周囲に対する「目配り」や「配慮」が善意に解釈されないことが多いことです。周囲や同僚の仕事ぶりや行動に何か気付いたことがあってアドバイスしたつもりのことが、「干渉」ととられる傾向があるため、よくもわるくも個人主義なところがあります。私も同僚の日本人の教え方や行動に対し同僚としてアドバイスしたつもりのことが、こちらの出方の方に問題があるというように中国人の担当教員に解釈され、「他人に干渉せずに自分のことだけ考えていればよい」というように言われました。したがって、周囲と協力しながら成長するといったようなことに対する考えが日本のそれとは異なる点に少し文化の違いを感じさせられました。

休日の過ごし方

 私の大学は大連の郊外にあり、しかも地下鉄の駅からも離れているため、休日も学内の宿舎でゆっくり過ごすことが多いのですが、休日にはまとまった買い物をしに大型ショッピングモールや大型スーパーにいったり、バスで大連市内に行ったりして過ごすことが多いです

大連の路面電車

 休日の小旅行に関しては、私がいる大連は、半島に突き出た都市という地理的位置にある関係から、都市間交通のアクセスがあまりよくありません。上海や広州などのように、観光するのにめぼしい都市が周辺にそれほど多くないため、ふとバスに乗って気軽に小旅行というのにはあまり適した都市ではないかなと思います。また、中国は、列車に乗る場合も荷物検査やパスポートチェックが必要なので、休日の小旅行もそれほど便利ではありません。もし大連にいる間に小旅行で行ってみたいところといえば、北朝鮮との国境に面した丹東や、旅順から船に乗って山東省に行ってみることなどが候補に挙げられるでしょう。

大連・夜のライトアップされた「中山広場」

大連の日本式住宅

大連郊外にある旅順博物館

生活編

☆給料・住居等

 中国の大学の日本語教師の給与水準は、日本の給与水準からみればそれほど高くありませんが(日本円で10万から15万円程度が普通)、多くの大学では、年に1回往復航空券が支給されるのと、学内の宿舎が無償で提供されるのが普通です。また、中国の大学は夏休み1.5ヶ月、冬休み1.5ヶ月で年間合計3ヶ月近くあり、夏休み冬休みの給料が支給されなかったり減額されたりする大学も少なくありませんが、私の大学はその間も全額有給です。これ以外に、大学によっては春節の時期にボーナスが出たり、年に1回国内旅行費用などが出る大学もあります。ですので、労働内容に照らし合わせればこの給与や待遇はほぼ適正といえます。むしろ、日本国内で非常勤やアルバイトの仕事をするよりは、中国での生活にさえ抵抗がなければ、中国の大学の日本語教師の方が条件面でいいのかもしれません。

なお、私が住んでいる住居は、キッチンと広めのリビング、バストイレ、8畳ほどの部屋が二つあり、ベッドや机、冷蔵庫など、基本的なアイテムは備え付けです。日本の狭めのワンルームマンションに比べれば相当広いです。中国の一般的な住宅では、バストイレの中に洗濯機があり、私の部屋もそうです。最初はびっくりしましたが、慣れました。中国の大学日本語教師は、給料は日本水準からみればそれほど高くはありませんが、学内の宿舎が無償で提供される点がメリットです。私の大学では、光熱費も無償で支給されます。

大学から支給された宿舎のキッチンとリビング

宿舎の部屋

現地おすすめグルメ

 グルメというより日常的な食べ物ですが、「土豆絲(トゥドウスー)」が好きです。これは、じゃがいもを、ピーマン、にんじんを千切りにして油で軽く炒めたもので、中国のポピュラーな家庭料理のようですが、中国にきて初めて食べました。とても美味しく、自分でもよく作っています。また、私は香菜(シャンツァイ)が好きなのですが、学内の食堂には香菜(シャンツァイ)がどこにいってもたくさんあって、いっぱい食べられます。

中国北方の代表的な家庭料理「土豆トゥドウスー)

これから日本語教師を目指すみんなへ


 日本語教師は、国内で教えるにせよ海外で教えるにせよ、今はコロナ禍で厳しい状態にあると思います。入国制限により、国内では、外国人や留学生が入ってこない状態であり、一方、私のように海外で教えている日本語教師も、現地の入国制限や航空便の減少により厳しい状態に置かれています。(かくいう私も、もう一年以上、日本国内から中国の学生たちを相手にオンライン授業で対応している状態です。)

 コロナ後はまた海外で日本語を教えるチャンスも増えてくると思いますが、海外で教える場合、日本国内の日本語教師以上に、教える対象(つまり学習者の出身国・地域、年齢層、日本語の学習目的など)によって教師側にも求められる資質やスキルが一様ではなく、非常に多様です。

したがって、海外で教える場合は、民間の日本語学校か大学かを問わず、日本語教師養成講座や日本語教育関連の資格を持っていることも大事ですが、それよりもまず、異文化適応力があり、そこの国が好きで、またそこの国の文化や社会、人に関心があり、現地事情に精通し、現地の言語ができることの方が多くの場合において大切です。その方が、単に会話授業だけでなく、翻訳や通訳に関連する日本語授業を担当する機会もできる可能性が高まります。さらに、日本語学習者の学ぶ目的や学ぶ手段が以前とは変化しつつある今日、これからの日本語教師はオンラインに対応できることも求められるようになるでしょう。

また、とくに大学で教えたい場合は、必ずしも日本語教育が専門でなくても、修士以上の学位を持っている人が就労ビザを取る場合に優遇される傾向にあります。したがって、とくに大学で日本語教師をしたいのでしたら、日本語教育関係の資格よりも、まずは修士以上の学位を取る方を優先してください。中国の大学もこれから少子化で大学淘汰の時代に入っていきますし、日本語学科も縮小傾向に入っていくことが見込まれています。中国人の学歴も相対的に高くなりつつあるので、もし大学で日本語を教えたい場合は、最低でも修士、できれば博士の学位を取るようにすることをお勧めします。今はどこの国でも就労ビザを取るためのハードルが引き上げられつつありますので、海外で働きたい場合は、より高い学位を取得しておいた方がより良い条件で働けるチャンスが増えると思います。

台湾にいた時にやっていたブログです。もしよければ読んでください。
金玉満堂~日本人女性の台湾観察記~

金玉満堂~日本人女性の台湾観察記~
台湾への渡航回数は多数にのぼるものの、台湾中部の街で生活するようになって、研究者として台北を中心に足を運んでいた頃とは全く違う台湾社会の姿に台湾の奥深さを実感。台湾の地方都市での生活から感じたことや考えたことについて、日本や中国との比較も交えながら気楽に綴っています。

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