日本語教師体験談(中国河北省秦皇島市)

<応募の経緯ときっかけ>

 江蘇省に定住して仕事をしていたのですが、都市が内陸にあったせいかとにかく蒸し暑い! 冬もさほど気温が下がらず、なんだか慣れない! 体調を崩すことも増えてきた! ということで、病院に行った結果、中国語で「水土不合」……つまり、身体に器質的な疾患はないけれど不調が続くのは土地が合わないからだ、と言われました。中国の病院には西洋医学と東洋医学の観点から見てくれるところがあるのですが、もはや引っ越すしか体調を治す術はないぞ! と言われたので、いよいよ喘息が悪化してきたところで求人を見まくる日々。

 そして見つけたのが河北省・秦皇島市にある大学の求人でした。

 南はたぶん向いてないんだろうな、と漠然と考えていたので、北にある河北省には惹かれました。調べてみれば海沿いで空気もよさそう。とにかく体調を戻さなければ! と思っていたので、環境がいいことが一番の条件でした。

 応募しようかどうしようか迷っていたら、当時行きつけだったカフェのお兄さんが「秦皇島はいいところだよ。空気もいいし、暑くないし寒くない。雪もさほど降らないから生活にはいいと思う。緑も豊かだし」と言ったので飛び込んでみることにしました。ありがとうお兄さん。

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本当に空気もいいし、夏も暑くない
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どんな季節も雨はほとんど降らず快晴続き、冬の雪は何回かに分けてうっすら

<現在の学校と仕事>

 国立の四年制大学、いわゆる「本科」の日本語科は一学年百人前後。現在は二年生全四クラスの会話と作文、サブカルチャーを扱う授業、新聞のコラムを読む読解を担当しています。それから、週に二回ほど日本語コーナーというものが夜にあり、学年混合で自由出席、二時間半自由に日本語で話をします。一年生二年生は三年生四年生の語学力に圧倒され、三年生四年生は一年生二年生の話題の出し方の巧さに感動しているようで、それぞれなんらかの学びがある時間のようです。わたしも、普段授業では話しきれない話をしていますし、学生の新たな一面を知ることができたりと収穫の多い時間になっています。学年混在だからか、ときどき本気の相談会になることも……。

 先生方も勉強熱心で、もう既に知識が豊富なのにまだまだ勉強したいと授業を見学にいらっしゃったり、試験監督の時にはわたしが作成した問題を学生と一緒に解いてみたり……教師歴三十年のベテラン教授も「まだまだ知らないことがあるんですよ」とおっしゃって、わざわざわたしのところまでお話に来ます。言語を追及する姿勢は見習っていきたいと思います。

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グループワーク中
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同僚教師と試験監督の打ち合わせ中

<語学は必要かどうか?>

 これまでの学校で一貫して「中国語がわからない日本人」を貫き通しているので、今のところ学生とは日本語だけでやり取りをしていますが、授業中に困ることはありません。どのクラスにもなぜか抜きん出て日本語が好きな学生がいて、生活面を積極的に助けてくれたり教えてくれたりします。本当に感謝です。

 生活に関して言えば、河北省は割と標準語に近い訛りを話す人が多く、親切な人が多いのでいつも話しかけてくれます。野菜を買いに行く店のおばちゃんはすっかりお母さん状態で、身体の心配はもちろん体調不良に効く食べ物飲み物、おいしい店の情報、安いスーパーの情報までなんでも教えてくれます。

 中国語ができるとちょっとした交流を楽しめるので、仕事を始めて余裕ができたら勉強してみるのもいいかもしれません。

<苦労と良いこと>

 場所や大学が変われば学生も変わります。

 学校ごとに重視するもの、学生に伝えてほしいこと、日本人教師に求めるものも大きく変わるので、学校を異動するときは今まで培った知識を保持したまま、価値観を一新する必要があると言えるでしょう。また、今まで大学で勤務してきて見ている学生の中には、その大学を希望して入った学生もいれば、点数による分配で仕方なく日本語科に入り、勉強をしているという学生もいます。モチベーションの異なる学生をどう授業に引き込むか、ということは、わたしからしたらとても苦労する点です。

 でも変わらないものと言えば学生のかわいらしさ。キメキメのお化粧とファッションで見た目はツンとした今風の学生でも、話しかけるとはにかみ笑顔でお話をしてくれますし、最初は言葉数が少なかった学生も慣れて来たら積極的に話しかけてきてくれたり質問に来たり、やる気が無かった学生がある日突然日本語に目覚めて授業に楽しそうに参加するようになったり……放課後も微信であれこれと雑談をしています。最近の雑談で面白かったのは、海賊が好きで今は日本の海上兵法に興味があります、という学生とのお話でしょうか。他にも、ファッションやメイクについて、音楽について熱く語る学生もいます。

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試験が終わってすぐの、学生との食事会

<住居について>

 現在勤務している大学では、住居は大学内にあるホテルの別棟です。コンシェルジュが一階に常駐していて、二十四時間相談にのってくれるので、何かが壊れたり助けてほしいことがあったときには心強いです。水道費やガス代、電気代はすべて学校負担。Wi-fiも飛んでいます。水道水は飲まないように言われていますので、ウォーターサーバーを設置しました。水のタンク代は自費ですが、月々多くても四十元ほどで賄えます。

 歩いて十分ほどで海なので、常にさわやかな風があるのは素晴らしいです。空気が澄んでいるようで、部屋から星も良く見えます。休日は学生と海辺を散歩したり、バスに乗って新しい店の開拓をしたりと楽しんでいます。

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<日本語教師を目指す方・迷っている方へ>

 すでに社会に出ている、という人も、新卒で、という人も、どんな人でも持ち味を活かして学生の為に何ができるかを考えれば、きっと大丈夫です。教師というとしっかりしていなければいけないとか隙があってはいけないとか、そう思うかもしれませんが、日本語教師というのは生きている我々がすでに教本だと思います。授業中に失敗してしまっても、それをどうリカバリーするか、それもまた学生にとっては学びの一環になると思います。

 学生も人間です。教師がどれだけ準備してきたか、どれだけ自分たちについて考えていてくれるかということをしっかりわかっています。学生に信頼してもらい、学生を信頼して、協力し合って授業を進行していければ、怖いことなど何もありません。

 一歩踏み出してみれば、多くの困難と、それを忘れるような幸せが待っていると思います。

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