ポーランドで日本語を教えてみた。その国ならではの行事と生活を楽しむ。

ヨーロッパの日本語教師体験談

日本語教師として最初に行ったのは、ポーランドでした。ポーランド南部にあるタルノフスキェ・グルィという街で日本語を教えました。ここには、世界遺産に登録された昔の銀鉱山の跡地があります。街中には昔の鉱夫の像があって、夜とか歩いているとビックリしたりします。街全体はとても小さくて、ヨーロッパによくあるように広場を中心に形成されています。

鉱夫の像

学校の様子

日本語講座は街の文化センターが市民講座の形式で開催しています。クラスは入門・初級・初中級の3クラスです。受講生は小学生から社会人までおよそ30人ぐらいでしたが、メインとなるのは中高校生でした。

日本語を学ぶ理由は日本と日本文化に興味があるというのはもちろんですが、日本のマンガ・アニメが好きというのが一番多い理由でした。将来、アニメの勉強をするために日本に留学したいという高校生や漫画家を目指していて、少年ジャンプに描くのが夢だという高校生がいました。ポーランド語訳の日本のマンガや「君の名は」のポーランド語のノベライズ本を読んでいる社会人もいました。

街の文化センター

そんな中、印象に残っているのは、途中から入ってきた11才の少年です。その頃、ポーランドのテレビで放送されていた日本のアニメ「NARUTO」を見て、日本語を習いたくなったそうです。いろんなグッズを身に着けて通っていました。

日本のアニメやマンガを日本語で見たい、読みたい、それが日本語を学ぶきっかけになっているようでした。

また、文化センターでは、毎月一回、文化講座もありました。日本の文化を教えるという市民講座です。生け花や茶道などが人気があるようですが、私には素養がないので、折り紙、習字といったスタンダードなもののほかに、消しゴムはんこなどのサブカルチャーをテーマにしました。中で一番人気だったのは、布ぞうり作りです。ポーランドの人から見ると、これは本当に初めてみるものだったようです。これこそが異文化の交流だと思いました。

授業の様子

住居

住んでいたのは民間のアパートです。普通にポーランド人が住んでいるアパートなので、水道管の交換や煙突掃除・ダクトの点検などもありました。ダクトの点検にやってきたのは、絵本で見るような煙突掃除屋さん。本当にこの格好の人がいるんだと感激して写真を撮らせてもらいました。

ポーランド語が話せないと思われたのか、アパートの住民たちとはあまり接する機会もなく、親しくなることもありませんでした。それがちょっと残念でした。

食事

アパートには冷蔵庫や電子レンジ、オーブンなど一通りの設備が完備されていたので、自炊もしたのですが、レストランでの外食もしました。この街にはポーランド料理のプロツキやビゴスはもちろんのこと、メキシコ料理、アジア料理、そして寿司のレストランもありました。しかし、ポーランドの食べ物といえば、なんといっても「ピエロギ」です。見た目も作り方も餃子にそっくりです。中国の餃子がロシアに伝わり、ロシアからポーランドに伝播したそうです。餃子と違うのは中に入っている餡です。ジャガイモと白チーズを混ぜたもの、ほうれん草の入ったものなど色々です。

このピエロギは、日本語講座でもとても役に立ちました。「~が好きです」というような文型を練習するときに、「ピエロギが好きです」という例文にしたら、受講生にとてもウケました。ピエロギはポーランド人のソウルフードです。

もう一つ、好きだったのは「ポンチキ」です。日本でいうところの揚げドーナツです。中にバラのジャムが入っていて、表面には粉砂糖がまぶしてあります。日本語講座に行く前などに食べていました。

ポーランドには日本語訳で「脂の木曜日」と呼ばれる日があります。イースター前の四旬節期間直前の木曜日です。何の日かというと、ポンチキをいくらでも食べていいという日です。受講生たちにおすすめの店を聞いて、当日行ってみたら、大行列で大盛況でした。そして、本当に一人で何十個も買っていく人たちが大勢いました。ポーランドの行事に参加できた気がしてうれしかったです。

イースター前には「キリストの道行」にも遭遇しました。授業を終えて帰ろうとしたら、文化センターの前の通りに大きな十字架を抱えて大勢の人が歩きながら、祈りを捧げていました。イースター前の金曜日に行われるというのは聞いていたのですが思わぬ形で遭遇しました。

その土地で暮らしているからこそ出会えることがあるのだと思いました。

小旅行

滞在中には小旅行も楽しみました。

近いということもあり、また、ポーランド南部エリアで教えている日本語教師の会合もあったので、クラコフには何度か行きました。会合は磯崎新さんが設計した「マンガミュージアム」の日本語学校で行われました。クラコフは世界的に有名な観光地なので見どころもたくさんあり、会合の前後にはあちこちを見て回りました。

このクラコフの観光案内所で知ったのが、チェンストホーヴァのヤスナ・グラ僧院にある「ブラック・マドンナ」と呼ばれるマリアの肖像画のことでした。以来、気になっていて4月最初の日曜日に出かけました。

この肖像画のマリアには頬に2本の傷があります。言い伝えでは、かつてモンゴルが攻めてきたときに、モンゴル人がこの絵を運びだそうとしたところ、突然、重くなって運べなくなったため、怒ったモンゴル人が刀で切りつけたからだということです。私はこの逸話がとても気に入っています。

当日、ヤスナ・グラ僧院に行くと、おびただしいバイクが敷地内に並んでいました。4月最初の日曜日はバイクシーズンの始まりの日ということで、ポーランド全土から集まってくるのだそうです。傷つけられても、なお、凛としているブラック・マドンナは、事故やケガから身を守ってくれるということで、毎年、ここでシーズンの安全と無事故を祈願するイベントが開かれているのだそうです。こちらもたまたま遭遇したのですが、また、一つポーランドの暮らしを見ることができました。

休日には近隣の国にも行きました。

2月には日本から友人が来たので、オーストリアのウィーンに出かけました。大寒波の襲来でとても寒かったのですが、観光客も少なく、歴史ある街並みとクリムトの「接吻」をゆっくりと鑑賞できました。

5月のはじめには、日本のゴールデンウィークのように「マユフカ」という連休があります。日本語講座がお休みになったので、チェコのプラハにバスで出かけました。片道7時間のバス旅行ですが、料金はとても安いです。

プラハは歴史を感じさせる素晴らしい街でしたが、とにかく観光客が多くてごった返していました。

プラハでは日本人家族が経営する「民宿桐渕」に泊まったのですが、最終日にここのご主人の運転と娘さんの通訳でモラヴィア大草原への日帰りツアーをしました。モラヴィア大草原は、死ぬまでに見たい世界の絶景にも選ばれているそうで、どこまでも続く草の波がきれいでした。人だらけのプラハに少し疲れていたので、とてもリラックスすることができました。

5月にはベルギーのイーペルという街で開催される「猫まつり」にも行きました。この祭りは3年に一度の開催で、ちょうど開催年に当たっていたのでいい機会だと思い、ヨーロッパ在住の日本人を対象としたツアーに参加しました。

猫まつりは猫の扮装をした人たちが山車とともに練り歩くパレードと高い塔の上から猫のぬいぐるみを投げる「猫投げ」があります。街全体が猫一色になっていて、猫好きにはたまらないお祭りです。

これから日本語教師を目指すみなさんへ

ポーランドは初めての長期滞在、外国でのアパート暮らし、地元のスーパーや美容院に行ったり、季節ごとのイベントへの参加などとにかく、色々なことが新鮮でした。海外で暮らすというのはこういうことなのだというのを実感することができました。不慣れな日本語教師なのに、講座の終了式では生徒から大勢のプレゼントをもらいました。また、いよいよ、帰国するというときに自宅のアパートで寿司とカレーのパーティを開いたのですが、思った以上に大勢の受講生が集まってくれてうれしかったです。

こうした人とのつながり、その国ならではの行事と生活。こうしたものに実際に触れることができたということがその後も日本語教師を続ける原動力になりました。

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